ハワリンバヤル俳句大会のこと 二〇〇七年五月吉日 田中丸 木の葉 記


「ハワリンバヤル」耳慣れない言葉かも知れないが、モンゴルの春祭りのことである。2007年の
4月29日と5月1日の両日に渡り、東京都練馬区光が丘公園でハワリンバヤルが開催された。
わたしはズカちゃん(バトジャルガル・ムンフズルさん)からの依頼で俳句大会のお手伝いをさ
せていただいた。

 今年3月3日桃の節句の日、わたしはズカちゃんを誘い友人たちと鎌倉の円覚寺へ出かけ
た。梅が満開の境内を散策しているとき、ズカちゃんが今年のハワリンバヤルでは俳句大会を
企画しているので、手伝って欲しいと言う。それなら、わたしの俳句の先生を紹介するわと、木
下ひでを先生をご紹介。

 これで、すっかり下駄を預けたつもりだったが、そうは問屋が卸さなかった。俳句大会の入賞
者のために色紙を書いて欲しいのと言う、では、友人の書家を紹介するというのに、ズカちゃ
んは、わたしに書けと言う。ううむ、なんという、難問でしょう。でも、かわいいズカちゃんのた
め、やむなく筆をとることに、そうしたら、ゲルの看板も書いてとの仰せ。はーい!了解!「毒を
食らわば、皿までも!」

  4月29日連休第1日目ハワリンバヤルが快晴のもと開催された。会場には2つのゲルが建て
られ、その一つのゲルの中で俳句大会のすべてが紹介されていた。色鮮やかなゲルの入口に
は、わたしが書いた看板たちが幸せな笑顔で笑っていた。とてもうれしかった。
 さて、俳句大会は4月29日光が丘公園のけやき広場の舞台上で、結果発表ならびに授賞式
が行われた。


―――ハワリンバヤル俳句大会「私の中のモンゴル」―――
  選者は、夏石番矢先生 と 木下ひでを先生

  最優秀賞俳句

  ホーミーにらくだの涙透き通り      吉村順子

  選評の中でひでを先生はホーミーについて司馬遼太郎さんの短いエッセーを紹介「司馬さん
もこれを説明するのには困ったらしく『声帯と口の不協和音』と書いている」と話し「喉歌とよぶ
人も多いらしいので、漢字で喉歌として、ルビをホーミーとつけたら多くの人が理解しやすいの
ではないか」と、仰っていた。受賞者の吉村さんもご納得されたようだった。
  この句を読んだとき、わたしの心の中に、前に旅したモンゴルの風景が浮かび上がってい
た。心から共感を覚え、どうしても色紙にはらくだの図を添えたくなった。



  その他の入賞句も大きな広がりのモンゴル国を思わせるとても良い句だ。

  天馬笑むのこりのこった草の上    清水国治
   
  天に鷲アジアの臍で馬頭琴      石倉秀樹
  
  駱駝隊来てオアシスの水ぬるむ   ロブサンドルジ・ガルタ
 
  白駿馬どこかで春の口笛が      高宮千恵

  ズカちゃんとの打ち合わせの時に、投句されたすべての句が無記名のまま選句された用紙
を見た。その中に、とても気になる一句があった。 

  星の数ひつじの数が野心かな  

  ひでを先生も高得点をつけている。わたしが「この句、とても良い句ねぇ、好きだわ、どうして
賞がないの」と尋ねたら「じつは、それはわたしの句なのです。わたしは主催者なので賞は辞
退します」とズカちゃん。「あれ、まぁ」と、わたしは驚いた。
 俳句大会のあと「それにしても私たちの4月のセミの会の吟行に参加して、初めて句を作って
から半月で、こんな面白い句をつくっている」とひでを先生はしきりに感心していた。
 なお、原句は「星の数羊の数が野心かな」となっているが、ひらがなのほうが読みやすくてい
いのではと、ひでを先生がおっしゃった。その旨、ズカちゃんに伝えると「そうですねー」と、ひら
かなで、表記することを了承した。




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